手首自傷(リストカット)症候群 Wrist-Cutting Syndrome
身近にあるカッターやカミソリ等を使って、手首やももなどの自分の身体を切る行為を繰り返す状態像をさします。一般的に、傷は縫合処置が必要のない浅さで、何度も同じ場所を繰り返し切るのが特徴です。若い女性に多くみられますが、男性例もないわけではありません。
これらの自傷行為は、必ずしも自殺しようと意図したものではなく、逆に自殺に対する歯止めの役割を果たしている場合さえあります。つまり身体の一部分を切ることによって、もっと大きな自己破壊的行動に移ることを制止しようとしていると考えられます。しかし、結果的に、自殺死にいたるケースも稀ではないこともまた事実です。
普通、自傷行為は、大切なだれかの喪失(離別、死別)や、自己愛を傷つけられるような体験を契機として出現しますが、はっきりとした契機を自覚できない場合もあります。自傷行為の他に、摂食障害(特に自己誘発性嘔吐や下剤乱用を伴う過食)、薬物乱用、アルコール依存症、性的逸脱行為、社会的ひきこもり、家庭内暴力、事故傾性(事故を起こしやすい傾向)等の問題が並存することが少なくありません。
彼らの多くは、「自傷行為の直前は現実感がなくなり、自分が生きているという実感も薄らいでいて、自傷行為に伴う痛みや出血によって実感をとりもどす」と述べますが、逆に、「自傷行為の最中のコトは覚えてない」、「幽体離脱した自分が上から自傷行為をしている自分を見ている」と述べる人もいます。自傷行為自体が一種の「嗜癖」となって、逃避手段や快楽手段になっているケースも見られます。また、大切なだれかを取り戻すためのアピール(あてつけ)であることもあります。
彼らは情緒的には慢性的な空虚感や抑うつを抱いていて、容易に自己愛が傷付きやすい面を持っています。この要因には幼少期からの不安定な親子(特に、母ー娘)関係や、乳幼児虐待の既往が関連していると考えられます。
この症候群には専門的な治療が必要です。衝動性や抑うつをコントロールする上で、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などが有効なことがありますが、普通は薬物治療だけでは十分ではありません。心に刻まれた「傷」や「痛み」を癒すためには、認知療法や精神分析的精神療法などの精神療法(個人療法・集団療法)や、自助グループ(同じ問題を抱えた人たちの集まり)への参加を続けていくことが有効です。
リストカットに関連する病気
・境界性人格障害
明らかな発達の遅れがみられずに、思春期・青年期になって自傷行為を繰り返す場合には、境界性人格障害のケースが認められます。
愛情を強く求めているのですが、他人をココロから信じることができず、自傷行為を繰り返すことで、相手の気持ちを確認しようとします。イライラすると自分を傷つけたくなるといい、相手に自分の思い通りに行動することを要求します。
・うつ病
罪責感や抑うつ感が増強すると、死ぬことばかり考えるようになり、自傷行為がみられることがあります
・統合失調症
被害関係妄想や幻聴などの病的異常体験に支配された結果、自傷行為に至ることがあります。