摂食障害 Eating Disorders
1)拒食症(神経性食欲不振症)Anorexia Nervosa
神経性食欲不振症には二つのタイプがあり、一つは食事制限と運動で体重が減っていくタイプで「制限型(または拒食型)」と呼ばれます。もう一つは、過食が見られ、そのために体重が増えるのを防ぐ手段として、自分でのどに指を突っ込んで食べたものを吐いたり、大量の下剤を飲んで下痢をしたりするタイプで、「過食・排出型」と呼ばれます。
発症するのは主に女性で、第二次性徴が出現する思春期から青年期にかけて発症します。
症状
症状は、身体症状と、精神症状・行動障害に分けることができます。
・身体症状
低体重、無月経、低体温、徐脈、不整脈、便秘、低血糖症状、けいれん、肝障害、貧血、電解質異常(低カリウム血症など)、
胃排泄能の低下、心不全、意識障害など
・精神症状・行動障害
やせ願望、肥満恐怖、ボディイメージの障害
やせているにもかかわらず絶えず動き回る(活動性の亢進)、2〜3時間もかけて食事をとる、食べ物を細かく切り刻む、
濃い味を好む、食事を作り自分では食べず母親や姉妹に食べるよう強要する、隠れ食い、過食、食事に関するものを収集する、
万引き(主に食品)
治療
拒食症の人は、入院で自由を束縛されるのを強く嫌いますので、外来治療では、これ以上体重が減ったら入院という限界(入院体重)を設定します。そのようにして体重減少が止まったら、本人と話し合って入院体重を徐々に上げていきます。
食事については、家族と同じ食事の半分くらいから始め、体重の増加を見ながら食事量を2割り増しにしていきます。体重増加のペースは1週間に500gi以上であれば、まずまずです。
栄養をとり出すと、身体にむくみが生じて急激に体重が増えることがありますが、それは単に水分がたまっているだけで、さらに栄養をとることでひいてきます。
体重減少がはなはだしいときは入院が必要になります。栄養回復の手段としては、中心静脈高カロリー輸液(IVH)、経鼻腔栄養、低カロリーからの病院治療食(または経口栄養剤)摂取などがあります。
食行動異常に対する治療としては、認知行動療法をが行われます。
家族や周囲の人の対処法
拒食症になる人は、それまで「よい子」で、親の言うことに従順だった場合が多いのですが、発症後は食事や体重に関してのみ、思春期の反抗を示すことができるようです。したがって、家族および周囲の人は、これまでのよい子のつもりで食べさせようとしても、まったく無駄であることを知る必要があります。食事や体重について支持するのは主治医に任せてください。
食事は家族と同じものを同じ時間帯に出し、食べることに干渉せず、何をどれだけ食べるかは自由にさせてください。
拒食症の人は、病気であるという自覚を持ちにくく、しばしば受診に対して強く抵抗します。しかし、本人のこころの中では「これではまずい、何とかしなければ」と思っている部分が必ずあるのです。したがって、本人が現在何に困っているのか、これからどうしようと考えているのかをじっくり聞きながら、本人に体力の低下などを指摘し、受診をすすめます。
2)過食症(神経性過食症)Buliimia Nervosa
過食のエピソードでは、いったん食べだすと頭の中が真っ白になって止めることができないという感覚があります。過食して体重が増えることを恐れ、それを防ぐような代償行動が過食した後にみられます。
この代償行動のパターンによって、二つのサブタイプに分けることができます。一つは、自己誘発性嘔吐や下剤乱用などによる「排出型」で、もう一つは運動や絶食による「非排出型」です。
拒食症の既往があり、経過中に過食が出現し、過食症に移行するタイプと、最初から過食症状が出現し、体重減少が顕著ではなく、拒食症の既往のないタイプがあります。
症状
過食と体重を増やさないようにする代償行為(自己誘発性嘔吐、下剤乱用、不食、運動など)が認められ、本人の自己評価は体重や体型によって大きな影響を受けます。
・身体症状
う歯(虫歯)、耳下腺の腫瘍、指の吐きだこ、低カリウム血症など
体重は標準内ですが、その変動が激しく、必ずしも無月経ではありませんが、月経は不規則です。
・精神症状・行動障害
しばしば抑うつ気分が認められ、手首自傷や大量服薬による自殺企図がみられるようになります。
また、万引き、アルコール依存、薬物乱用、家庭内暴力、性的乱脈などがみられます。
治療
まず過食症に対する理解を深めてもらう心理教育が大切です。過食した後の不食がさらなる過食をひきおこしやすいために、三食きちんととることの重要性が説明されます。三食とると体重が増えるのではと心配になるかもしれません。しかし、人間の食行動は、通常は現在の体重を維持するようにおこるものであり、三食をきちんと食べてもどんどん体重が増えることはないのです。
過食については、認知行動療法が行われます。「ほんの少しでも食べてしまったら、とてるつもなく体重が増えてしまう」といった認知のゆがみをとりあげ、果たしてそうなるのかを検証し、適切な認知へと修正していきます。
過食に対する薬物療法としては、抗うつ薬の効果が実証されています。
家族や周囲の人の対処法
過食衝動が起こってきたとき、本人が過食するのを止めてほしいと家族に頼むことがあります。この依頼を安易に請け負ってしまうと、本人はまったく自分で過食をコントロールしなくなります。その結果、家族がムリに止めようとすると、本人はさらにひどく過食しようとします。
このように、過食や排出行動については、家族や周囲の人は止めることはできません。このような行動をとやかく言っても、かえって不安定になるだけです。
しかし、手首を切ったりする自傷行為や大量服薬をして自殺を図るような行動については放置せず、一緒にそのデメリットを本人に指摘しながらこれを止めていく必要があります。